子ども向けプログラム 

受講者の感想

今、子どもたちに求められているもの

千葉みらい響の杜学園

施設長 渡部 靖久

私は20代の頃、児童自立支援施設で7年間、子どもたちと共に暮らしてきました。自分の生き様を伝える感化、with の精神が私の原点となりました。24時間365日、子どもたちと共に暮らすことで、愛着障害、非行性の除去を試みてきました。それはただ普通の暮らしをしてきただけで、特別なプログラムなどありませんでした。

あれから30年が経ち、社会が大きく変わってきたように思います。物や情報に溢れ、大変 便利な世の中になりました。しかし、子どもたちからは生きた言葉が失われ、人間関係が希 薄になり、社会で上手く生きられない若者が増えているように思います。特に社会的養護が 必要な子どもたちは、安心できる居場所もないため、大海原をたった一人で漂流しています。厳しい社会の現実

が待っています。

私たちにできることは何でしょうか。まずは子どもたちと共に暮らすこと。それは子どもたちが安心して航海ができるように、希望を与える灯台になることです。そして安心して帰って来られる港になることです。

その上で、もう一つ大切なことがあります。感化や with の精神だけでは今の時代は難しいでしょう。施設は交代制で養育者も毎日替わります。ただ寄り添い受け止めるだけでは、子 どもと職員が大海原で溺れてしまう場面に遭遇することが増えました。大人が生きた言葉 をきちんと子どもたちに教え、コミュニケーション能力をつけてあげることが今の時代に は必要なのでしょう。昔は家庭で、地域社会で自然に学んできましたが、現代は意図的に場 を設け、子どもたちにソーシャルスキルを教えないといけない時代になっています。私たち はずっと傍にいてあげることはできません。子どもたちの人生、生きていくのは自分だから。社会で生きる力をつける。将来、社会の役に立ち、働いて自己実現できる人になってもらい たい。それを応援するのが大人としての役割だと思います。暮らしを大切にしながら、こと ばキャンプで生きる力を身につける。それが今、求められているような気がします。

 

コミュニケーション力は生きる力

社会福祉法人光明会杉並学園

施設長 麻生信也

幼い子どもにとって、安心と安全を与えてくれる絶対的な存在であるはずの親。その親からのいつ始まるとも、いつ終わるとも知れない暴力や暴言、さらに育児放棄などにさらされ続けた子どもたちが、ようやく保護され、やっとの思いでたどり着く暮らしの場が児童養護施設です。

そこで暮らす子どもたちは、人とのかかわり方や適切な距離感がわからない、カッとなりやすく冷静に話し合うことが苦手など、対人関係に課題を抱えていることが多くあります。こうした課題は学校での友人関係に大きく影響します。友達ができない、いじめにあうなどです。そして、こうした影響は自尊感情の低さにつながります。

例えば欲しい物があるとき、我慢することができずに、一方的にしつこく要求することがあります。そして、要求が受け入れられないと、暴言や暴力に訴えることも。幼いころに、自分の気持ちを十分に受け入れてもらった、わかってもらえたという実感のないままに育ってきた子どもたちは、交渉したり、ときには要求を諦めたりなど、その場の状況や相手の事情を考慮することが苦手になるようです。こうした特性は周囲からの孤立やいじめを誘発します。

こうして考えると、施設で暮らす子どもたちがコミュニケーション力を伸ばし、自分の気持ちを十分に理解してもらえた、わかってもらえたと実感することは自尊感情を高めるための前提条件となりそうです。周囲の子どもと同じような子ども時代を取り戻し、周囲との楽しい時間を取り戻すためにはコミュニケーション力が不可欠だというわけです。

こうした目的に向かって子どもと職員が力を合わせて取り組むプログラムがこの「ことばキャンプ」です。子どもだけではなく、職員も一緒にというところがいいのです。自分の存在を受け入れてもらった、支えてもらったという実感、自分を見てもらえた、知ってもらえたという嬉しさは特定の相手との共同作業があっての成果です。

「ことばキャンプ」での学びを施設内での共通言語として、さらには親子関係修復のプログラムとして活用し、さらにその可能性を広げたい。

ことばキャンプは暖かい眼差しで励まされる場

児童養護施設鎌倉児童ホーム

秦 晴彦施設長

児童養護施設に入所している子どもたちは住み慣れた家庭、地域から分断されて入所している。転居などとは全く違い、その子の生活基盤が根底から変容してしまうことになる。親、兄弟、親類、友人、近隣の方達など、多くのものを喪失してしまう。多くの子どもたちは激変してしまった環境に戸惑いを覚えるのは想像を絶するものである。児童養護施設で働く者にとっては、当たり前であるが、子どもたち一人一人に目を向けると絶対に当たり前でない。非日常が日常になる異常さを私たちは常に忘れてはいけないと思いながら、子どもたちと日々の生活を共にしている。

自己の存立基盤まで覆されてしまうような体験をしてきた子どもたちには、自己を肯定するような体験の積み重ねは重要であると考える。施設の生活の中では、その子どもたちをありのままに受けとめ、また、未完成な子どもたちの成長を支えていくことは極めて困難なことであると実感している。生活者としての職員、より多くの経験をしてきた大人として社会に自立していくために様々なことを指し示していくことを必要とされる職員。様々な視点から子どもたちを支えているが、とても施設職員だけで完結できるような軽い話ではない。ことばキャンプと出会い、施設職員だけでは支えきれないパーツを手に入れることができたと思っている。それは、コミュニケーションスキルだけにとどまらず、ことばキャンプでかけられる暖かい眼差しから始まり、子どもたちを肯定的に受け止め、励ましてくれる人達の存在が、子どもたちの身の回りにあるということを実感できる場であると思ったからである。

 

自らを見つめ直す絶好の機会

児童養護施設あゆみ学園
丑久保恒行 施設長

今回、NPО 法人JAMネットワーク主催で行われた「ことばキャンプ」全 6 回シリーズが、 参加した子ども達に大きな刺激と自分を見つめる時間を提供できたと考えます。
親子関係の不調や地域社会との関りが少なく成長する子ども達にとって、育ちのプロセス でコミュニケーション能力をどう身につけさせてゆくかが大きく問われています。
講師の上手な進行によって、少しずつ不安感を解消する場面をつくり、前向きに積極的に発言 する子が増えてきました。いつもは話を聞いて欲しい、注目して欲しいとの子ども達が多く、 ともすると、かたわらの職員は繁忙さの余り、聞く耳モードでいられず、子ども側が不信感を持 つなど、マイナス要因が働き、大人と子どもの距離感が遠のくことも多々ありました。
ところが、興味を示し、全ての子ども達は休むこともなく参加していたのです。前に出て発言 をしたり、自分の意見を自分の言葉で相手に伝えることもできるようになったのです。一方、現 場の職員も大勢参加し、たくさんの気づきや発見があったとのことです。例えば、子どもは一人 一人顔が違うように、理解力にも大きな差があり、子どもに合わせた言葉や話し方をしなければ と感じたそうです。また、やる気のない子や自分の意見を素直に表現できない子に対し、話し やすい環境をつくってあげる事を改めて感じたとの事でした。 

いずれにしても、今回のことばキャンプで学んだことを日々の生活の中で、どれだけ職員サイ ドが意識を高めて実践し続けるかが大事であります。
日々の暮らしを通して、子ども達一人一 人の個性を尊重すると共に、良き点を伸ばし、社会に有意な人となるよう支援していきたいと考えます。